厚生年金と共済年金の一元化問題

社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 厚生年金と共済年金の一元化問題

 年金の一元化に向けて政府内での検討作業が進んでいるようである。 読売新聞(1月22日付)によると、公務員OBの年金額削減に踏み切る方針を固めたとあり、いよいよ政府も覚悟を決めて勤労者の年金一元化にとりかかるようである。
 現在、両年金を受給している「Tomeさん」としては、これに関心を向けざるをえない。もっとも共済年金の受給額は極めて小額であるので実質的な影響はないようである。
 ものの本によると、わが国の公的年金制度は、「恩給制度」としてスタートした。古くは、明治8年の海軍退隠令で退役軍人さんの余生をサポートすることから始まり、その後、明治8年には陸軍、明治17年には官吏を対象とする恩給令が設けられた。
 一方、民間勤労者については昭和17年6月の「労働者年金保険法」まで待たなければならない。
 その後も幾多の改革があり、そのつど官民格差も解消されてはきたが、まだ残骸が残っているようである。
 そのひとつは、「職域加算」の制度である。現在の厚生・共済年金は、よくいわれるように「加入年数に比例した1階部分」と「報酬に比例した2階部分」からなっている。ところが、共済年金にはさらに3階(実際には屋根裏部屋程度という意見もある)があるのだ。
 もっとも、民間大企業にも「厚生年金基金」という3階があるのだが、これを議論すると話が複雑になってくるので、ここではふれない。
 共済年金におけるこの3階部分は職域加算といわれているもので、生年月日によって異なるが、組合員期間20年未満の場合で5%から10%程度、20年以上の場合10%から20%程度、報酬比例部分が加算される(Tomeさんの場合は8.3%)。これは、現在の受給者の平均で月1万円から2万円程度ではないかと思われる。
 ただし、共済年金の方が厚生年金と比べて保険料率が0.35%高いので、全部が特典とはいえない面もある。しかし、この程度では職域加算分を賄うことはできず、その他の優遇措置分を含めて、政府は別途に税金を1兆7000億円(16年度)も投入している。このことが官優遇の動かざる証拠というこ とになろう。 
 次にいわれているのが、「遺族共済年金の転給制度」である。
 厚生年金の場合も、現役の被保険者や年金受給者が死亡すると、原則として4分の3に減額されるが、配偶者などの遺族がかわりに年金を受け取ることができる。しかし、その受取り者 が亡くなると年金はそこで打ち切りになる。
 ところが共済年金の場合は、職域加算部分があること、それも公務上の死亡は優遇するなどのほか、労災保険法でおなじみの転給制度があるの だ。たとえば、死亡したご主人の年金を受け取っていた奥さんが亡くなると、その子、孫、あるいは父母、祖父母までが 一定の条件を満足していれば次々に年金を受け取ることができる。まさに公務員一家を世帯ごと保護する仕組み になっている。
 もともとわが国では明治維新以来、工場をはじめあらゆるものが官営、官業からはじま るなど、必然的に官主導、官優遇の仕組みが生まれ、育ってきたのである。
 しかし戦後の一時期は、少なくとも実生活においてかならずしも官優位とはいえない時代があった。一般公務員は安月給の最たるものであって、争議権も制限され、昇給もままならない。それでも我慢して文句を言わず働けば、恩給だけは間違いなく頂ける、そんな思いで 奉公してきた人も多い。Tomeさんの父親はまさにその典型なのである。
 Tomeさんが就職しようとした当時(大卒39年、マスター41年)の公務員給与の低さと、まわりの人の評価の低さ(一部高級官僚は別である)はどうしようもないほどであった。 
 それではなぜお前はということになるが、当時は理工系に限り、1階級特進(修士課程2年を勤務年数3年として扱う)、育英会奨学金(当時の支給額は大学院授業料の10倍)の返還免除等々、官優遇措置に惑わされたのも理由のひとつである 。そうまでしなくては、理工系ではなり手がなかったのである。
 よって、2年を経ずして民間に移ってしまったTomeさんからすると、現在のOB受給者には、よくぞ長年勤めてこられましたと尊敬の念すら覚え、 その年金を剥ぎ取る話の痛みが少しは分るのである。
 その後も時代はめまぐるしく変わっていった。 
 よって、制度も時代のニーズに合うように変えていくのは当然であり、そのためにはある程度の痛みも甘んじて耐えなければならない。 
 これは一般論ではなく、これからは全ての国民に痛みが及ぶ時代、分かち合う時代である。
 ただ、過去の経緯とか実態を少しでも知っていて、該当する人の痛みがわかるようになると、議論がより一層深まり、よい知恵が生まれてくるのではないかと思う。 
 分かち合うのは痛みであり、ねたみであってはならない。

(No8.平成18年1月22日)

 

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