年金額確定の仕組み(平成27年度)

社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 平成27年度の年金額はこのようにして決まった。(国民年金法による年金額改定の仕組み)
                         厚生年金保険法についてはこちらを
はじめに:27年度の年金額の改定にあたっては、
@本来水準が初めて物価スライド特例水準を上回ったこと、
Aこれにより、初めてマクロ経済スライドが適用されたこと、
B国民年金法と厚生年金保険法では改定の仕組みが少し違うことが意識されるようになったこと、
などの話題がからんでいる。
 27年度以降の年金額はすべて本則により改定されることになるので、これを機会に過去の経緯をおさらいしてみることにする。
1.国民年金法による改定の仕組み(これまでの経緯を含めて)
1.1 平成16年法改正前までの年金額の改定方法
(1)基本原則:財政再計算物価スライド制に基づく。
・財政再計算
 賃金の伸びや消費支出の伸びなど、国民の生活水準その他諸情勢の著しい変動に対応するため、原則として5年に1回実施して、年金制度全般と年金額そのものを見直す。
・物価スライド制
 次の財政再計算までの間については、全国消費者物価指数の対前年変化分に応じて、年金額を改定する。
(2)平成12年(4月)の法改正による年金額の改定方法 
@平成11年における財政再計算により、平成12年度出発点における老齢基礎年金の満額は、804,200円と法定された。(物価は0.3%ダウンしたが、特例により前年度と同額に据え置いた)
A平成13年度以降平成16年度法改正直前まで
・平成12年に引き続いて13年、14年と連続して物価が下がったにもかかわらず、特例措置として、年金額は804,200円のまま据え置かれた。(この間の物価下落率は合計で1.7%)
・平成15年、16年も連続して物価が下がったので、年金額は規定通り、797,000円、794,500円と改定された。


1.2 平成16年(10月)の法改正による年金額の改定方法(本来水準)
(1)基本原則
 賃金の伸びや消費支出の伸びなど、国民の生活水準その他諸情勢の著しい変動に対応するという基本原則には変わりはなかったが、年金額は5年に1度の財政再計算によるのではなく、毎年、改定率を改定し、これによって自動的に決める方式に変更された。
@改定率の改定方法
 新規裁定者(実際には68歳到達前まで):原則として、前年度改定率×名目手取り賃金変動率
 既裁定者(実際には68歳到達以降)  :原則として、前年度改定率×物価変動率
 ここで、
・名目手取り賃金変動率は、物価変動率×実質賃金変動率×可処分所得割合変化率で求める。
・物価変動率とは消費者物価指数前年値/前々年値、つまり、前年の物価がその前の年にくらべていくら変動したかを表す指数
・実質賃金変動率とは名目賃金(標準報酬)÷物価指数、つまり実質賃金の変動率の2年度前、3年度前、4年度前3年間の平均値(3乗根で求める)
・可処分所得割合変化率とは名目賃金(標準報酬)から税金や社会保険料等を控除した手取分の変化を表す指数で、実際には、(手取率に代わる定数0.91ー厚生年金保険料率/2)の3年前の値が4年前にくらべていくら変化したかを表す指数。
Aマクロ経済スライドの導入
 基本は上記の通りであるが、財政が特に厳しい期間を調整期間として政令で定め、この期間中は給付額を抑制するために、
 調整期間中の改定率は、@による改定率×マクロ経済スライド調整率とする。
・マクロ経済スライド調整率とは、少子高齢化の年金財政に及ぼす影響の度合いを表す指標であり、
 調整率=公的年金被保険者変動率×0.997で計算する。
 ここで、公的年金被保険者変動率は現役被保険者数の増減の度合いを、また0.997とは平均寿命の延びを考慮した一定値。
 つまり、調整期間中においては、
・賃金や物価の上昇に応じて年金額が上がった場合、実際のアップ率は調整率を掛けた値だけ少なくする。(ただしその結果、年金額が前年よりダウンする場合には据え置きとする)
・賃金や物価が下がった場合は、調整は行わない(デフレ下ではマクロ経済スライドは適用しない)
・調整期間は平成17年度から開始とされており、現在も調整期間中である。
・ただし、後述するように、実際の年金額が物価スライド特例措置によって改定される期間は、マクロ経済スライドは適用されない。

(2)平成16年度改定時の出発点
@本来水準
 満額の老齢基礎年金の額は、780,900円と法定された。
 この値は、平成12年度の804,200円を出発点として、それ以後の各年度とも完全物価スライドが適用された場合の値である。(この間の物価下落率合計値は2.9%であったので、804,200円×0.971から求めた値)
A物価スライド特例水準
 平成16年法改正直前での満額の老齢基礎年金の実際の額は794,500円であった。
 しかしながら、法改正による額は780,900円であり、実際額より1.7%低い額が定められていたが、年金額の減額改定には既得権という壁がつきまとうものである。
 このため、16年法改正に合わせて、当面の年金額を保障するために、次のような特例措置を設けることにした。
・平成16年度の年金額を改正直前の額にあわせて794,500円とし、これを804,200円×物価スライド率(0.988)と説明することにした。(0.988とは、12年度から16年度までの物価下落率合計値2.7%のうち、1.2%だけを年金額に反映させたことを追認した値)
・そしてこの物価スライド率は、17年度以降、基本的には毎年、物価変動率に応じて下げ方向にだけ改定する。
 前年の物価が上がった場合は改定しない。
 前年の物価が下がった場合でかつ、直前に改定があった年(の前年)の物価水準よりも下がった場合に、その物価水準の差だけ改定する。
1.3 平成16年法改正以降の年金額の改定方法
 当面の年金額は、本来水準と物価スライド特例水準のうち、高い方を採用する。
 物価スライド特例水準の方が高い場合は、マクロ経済スライドによる調整は行われない。
本来水準:780,900円×改定率。ここで改定率は
 新規裁定者(68歳到達前まで):原則として、前年度改定率×名目手取り賃金変動率×調整率
 既裁定者 (68歳到達以降) :原則として、前年度改定率×物価変動率×調整率
特例水準:804,200円×物価スライド率 (注:物価変動率とは違う)
 
1.4 平成26年度までの年金額の改定の推移
・平成17年度から26年度までの実際の年金額は、いずれの年度においてもは物価スライド特例水準の方が本則による水準よりも高かった。
・当初のもくろみでは、平成16年以降、経済成長に伴って賃金と物価が上昇し、やがては本則による年金額の方が特例水準を追い越すものとしていた。
 一時はかなり差が縮まったこともあったが、平成24年度では2.5%と、当初の1.7%よりも差が広がってしまった。
・そこで、政府はこの乖離を解消するために、平成25年10月に1%、26年4月に1%程乖離が縮まるように、物価スライド特例水準を強制的に下げることにした。その結果、26年度末で残る差は0.5%となった。
1.5 平成27年度における年金額の改定
@賃金と物価の上昇
 平成27年度においては、名目手取り賃金変動率が2.3%アップ、物価変動率が2.7%アップしたので、
 これに基づく改定率は、
 新規裁定者(68歳未満)=26年度改定率×名目手取り賃金変動率(1.023)
 既裁定者(68歳以上)=26年度改定率×物価変動率(1.027)
 となるところ、「既裁定者の改定率が新規裁定者のそれを上回ってはならない」というルールから、 既裁定者も名目手取り賃金変動率による改定となった。 
Aマクロ経済スライドの適用による調整期間中の改定率
 上記によれば新規裁定者も既裁定者も26年度の本来水準に比べて年金額は2.3%上がることになり、物価スライド特例水準を超えることになったので、初めてマクロ経済スライドが発動されることになった。
   平成27年度の調整率は、公的年金被保険者変動率(-0.6%、すなわち0.994)×0.997=0.991(-09%)とされた。
 よって平成27年度の改定率は新規裁定者、既裁定者とも
 27年度改定率(0.985)×名目手取り賃金変動率(1.023)×調整率(0.991)=0.999 
B27年度の満額の老齢基礎年金額 (2級の障害基礎年金額、遺族基礎年金額も同じ) 
・新規裁定者、既裁定者とも 780,900円×0.999から 780,100
・26年度の本来水準(769,200円)と比較して、2.3%アップではなく、マクロ経済スライドによる調整により、それよりも0.9%少ない1.4%のアップ
・26年度の実際の年金額は物価スライド特例水準(772,800円)であったため、それと比較すると0.9%のアップ

C物価スライド特例措置の廃止
 物価スライド特例措置による年金額が本来水準よりも下回ることになり、同措置は存続理由がなくなって廃止となった。
                        
              続く(厚生年金