受給資格期間の短縮(いわゆる10年年金)

社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 受給資格期間の短縮(いわゆる10年年金)
1.期間短縮年金(10年年金)の法令上の根拠
(1)老齢基礎年金(26条)
 「老齢基礎年金は、保険料納付済期間又は保険料免除期間
(学生等の納付特例により納付することを要しないものとされた保険料に係るものを除く)を有する者が65歳に達したときに、その者に支給する。ただし、その者の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年⇒10年に満たないときは、この限りではない」
 ただし、実際には附則9条により、
 「保険料納付済期間と保険料免除期間に合算対象期間を合算した期間」で判定される。 
(2)老齢厚生年金(42条)
 「老齢厚生年金は、被保険者期間を有する者が、次の各号のいずれにも該当するに至ったときに、その者に支給する」
@ 65歳以上であること
A保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上⇒10年以上であること
⇒実際には、「保険料納付済期間と保険料免除期間に合算対象期間を合算した期間」で判定される。
(3)特別支給の老齢厚生年金(附則8条)
 上記の42条のAを満たし、かつ1年以上の厚生年金被保険者期間を有する者が、支給開始年齢に達していること。
(4) 寡婦年金(49条)
 「寡婦年金は、死亡日の前日において死亡日の属する月の前月までの第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上⇒10年以上である夫が死亡した場合において、夫の死亡の当時夫によって生計を維持し、かつ、夫との婚姻関係
(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む)が10年以上継続した65歳未満の妻があるときに、その者に支給する」
注意:平成29年8月1日以降に死亡でないと、適用されない。

2.期間短縮年金(10年年金)はいつ受給権が発生するか
 平成24年改正法附則14条「施行日
(平成29年8月1日)の前日において現に国民年金法による老齢基礎年金又は退職を支給事由とする年金たる給付又は年金たる保険給付であって政令で定めるものの受給権を有しない者であって、改正後の国民年金法26条その他政令で定める規定により老齢基礎年金その他老齢を支給事由とする年金たる給付(老齢基礎年金等)の支給要件に該当するものについては、施行日においてこれらの規定による老齢基礎年金等の支給事由に該当するに至ったものとみなして、施行日以後、その者に対し、これらの規定による老齢基礎年金等を支給する」
⇒平成29年8月1日に65歳以上であるもので、それまでに老齢基礎年金(老齢厚生年金も)の受給権を有していないが、受給資格期間10年以上を満たすことになった者は、平成29年8月1日に受給権が発生し、その翌月(9月)分から年金が支給されるようになる。
 早い者であれば、10月13日(金)に第1回の年金(9月分だけ)が振りこまれる予定。
 なお、特別支給の老齢厚生年金についても、平成29年8月1日に於いて既に支給開始年齢に到達している場合は、上記と同様。
注意:もし、納付済期間+免除期間+合算対象期間が300月以上あると判明した場合は、その者の老齢基礎年金は65歳に遡って、また特別支給の老齢厚生年金がある場合は支給開始年齢に遡って支給される。
 この場合、5年以上経過している場合は、至近の5年分しか支給されないが、年金記録の統合や修正がある場合は、時効消滅はない。

3.期間短縮年金(10年年金)の繰上げ、繰り下げは
(1)繰上げ:平成29年8月1日に60歳以上、65歳未満であるもので、受給資格期間10年以上を満たすことになった者は、平成29年8月2日?以降いつでも繰り上げ請求をすれば、繰上げ請求した日に受給権が発生する。
(法令上は、「請求の前日において受給資格期間を満たすこと」となっている。平成29年8月1日でも繰上げ請求ができるのかもしれない。ただし、事前受付の段階での年金請求と同時にはできないと思われる)
(2)繰り下げ:改正後の60年改正法附則18条5項
 「65歳到達後に受給権を取得した者に対する繰下げ支給の規定の適用については、老齢基礎年金の受給権を有する者であって、受給権を取得した日から起算して1年を経過した日前に当該老齢基礎年金を請求していなかった者は、厚生労働大臣に当該老齢基礎年金の支給繰下げの申出をすることができる」
 「2項 1年を経過した日後に次の各号に掲げる者が前項の申出をしたときは、当該各号に定める日において、同項の申出があつたものとみなす」
@老齢基礎年金の受給権を取得した日から起算して5年を経過した日前に他の年金たる給付の受給権者となった者:他の年金たる給付を支給すべき事由が生じた日
A5年を経過した日後にある者(前号に該当する者を除く):5年を経過した日
 すなわち、平成29年8月1日に受給権を取得し、それから1年経過後以降であれば、年齢に関係なく最長で5年の繰下げ受給を申出ることができる。
 その場合の繰下げ増額率は
・昭和16年4月1日以前生まれは、年単位で最大は5年で88%
・昭和16年4月2日以降生まれは、月単位で最大は60月で42%
 一方、老齢厚生年金の繰下げは
・平成19年4月1日以後に老齢厚生年金の受給権発生の者:月単位で
 最大は60月で42%
・平成14年4月1日前に老齢厚生年金の受給権発生の者:年単位で最
 大は5年で88%(10年年金該当者は対象外)
⇒平成14年4月1日以後、平成19年4月1日前に老齢厚生年金の受給権発生の者には、繰下げの制度はない。

4..期間短縮年金(10年年金)の受給権者が死亡した場合
(1)遺族基礎年金(長期要件)(37条)
 「遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であった者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の配偶者又は子に支給する」。
3号:老齢基礎年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る)が、死亡したとき」( )内を新規追加
4号:「老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている者が死亡」から、「保険料納付済み期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が死亡」に改正 
⇒よって、期間短縮年金(10年年金)の受給権者が死亡した場合であっても、長期要件による遺族基礎年金の受給権は発生しない。

(2)遺族厚生年金(長期要件)(58条)
 「遺族厚生年金は、被保険者又は被保険者であった者が次の各号のいずれかに該当する場合に、その者の遺族に支給する」
 4号:老齢厚生年金の受給権者又は受給資格期間を満足する者が、死亡したとき」を「老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る)又は保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が、死亡したとき」に改正。
⇒よって、期間短縮者年金(10年年金)の受給権者が死亡した場合であっても、長期要件による遺族厚生年金の受給権は発生しない。


(3)未支給の年金
 平成29年8月1日に受給権が発生し、その翌月分から年金が支給されることから、平成29年9月1日以降に死亡した場合に、未支給の年金が発生する可能性がある。

5 加給年金・振替加算
@厚生年金被保険者期間が20年以上あっても老齢厚生年金の受給権がなかった者が、受給資格期間の10年化に伴って受給権が発生した場合、その者は満了者になる。よって、
・その者の配偶者に加給年金が支給されていた場合は、支給停止になる
・その者の配偶者に加給年金が支給されていない場合で、65歳未満であれば、その者に加給年金が支給される。
 
A受給資格期間の10年化に伴って、初めて老齢基礎年金の受給権が発生した場合
・その者の配偶者が満了者であれば、その者に振替加算が加算される。
 この場合、もしその者の老齢基礎年金額が0円(全期間が合算対象期間)であっても、振替加算相当の老齢基礎年金が支給される。

.6 併給調整
 受給資格期間の短縮によって、老齢基礎・老齢厚生年金の受給権が発生した場合であっても、併給調整により、必ずしも実際の年金受給額が増えるとは限らないことに注意を。
 たとえば、65歳以上の者であって、新たに老齢基礎・老齢厚生年金の受給権が発生した場合
@3級の障害厚生年金受給中の者
・3級の障害厚生年金と、老齢基礎年金+老齢厚生年金のいずれかを選択
A2級の障害基礎+障害厚生年金受給中の者
・2級の障害基礎+障害厚生年金と、2級の障害基礎+老齢厚生年金のいずれかを選択
B2級の障害基礎年金受給中の者
・2級の障害基礎+老齢厚生年金が受給できる (必ず増額)
C遺族厚生年金受給中の者
・老齢基礎+(遺族厚生AND/OR老齢厚生年金が受給できる(必ず増額)
 2階部分については、平成19年3月31日までに遺族厚生年金の受給権が発生しかつすでに65歳になっていた場合は選択、それ以外は老齢厚生年金先当て方式となる。
 選択方式の場合は,「年金受給選択申出書」の提出が必要。